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【前編】国内で貴重なスポーツビジネス遍歴をもつ柏崎さんに聞く、企業目線のスポンサーシップ活用術

スポーツビジネスをより身近に感じていただくために、プラスクラス・スポーツ・インキュベーション(以下PSI)代表の平地が各界のキーマンにインタビューをさせていただく本企画。

第3回となる今回は、NTT ドコモの「DAZN for docomo」だけではなく、KONAMI、airweave、OAKLEYなどグローバルで、大小数多くのスポンサーシップビジネスやスポーツマーケティングに携わってきた、MANAGEMENT-K 代表の柏崎健太さんお越しいただき、国内外の企業目線でスポンサーシップについて大いに語っていただきました。柏崎さんは、ご自身が代表を務めるコンサルティングカンパニー「MANAGEMENT-K」を経営しながら、NTTドコモの社員としてもご活躍されています。

前編では、柏崎さんのこれまでの経歴から企業がスポンサーシップする理由や企業がどうスポンサーシップを活用すべきかお話しいただきます。
*インタビュー日:2021年12月8日

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はじめに(柏崎さんの自己紹介)

PSI 平地大樹(以下、平地) まずは柏崎さんのことをお伝えしないといけないかなと思うので、柏崎さんの自己紹介がてらお話をいただけると嬉しいです。

MANAGEMENT-K 柏崎健太氏(以下、柏崎) 僕はもうスポーツビジネスの仕事をして17年になりまして、自分の背景から話すと、もともと陸上の選手だったんですよ。

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平地 陸上なんですね。たしかにSNSのアイコンがそうですよね。

柏崎 フロリダのIMGアカデミーに出張してた時にハードルを跳んでいるときのアイコンで、小さい頃から陸上選手でした。大学は順天堂大学。昨年は東京オリンピックに出場した日本の橋本(大輝)選手が金メダル取ったなどありましたが、身の回りには普通のビジネスに進む人が少ない環境でした。

要は、プロになるのか、日本代表になるのか、あるいは実業団に行くか、学校の先生になるか。医者になるか。そういう環境の中で自分は教員ではなくてビジネスのほうに行きたいと思ったんですよね。ビジネスの世界で対等にトップの人たちと戦うには、やはり自分の専門性を生かすことがブレイクスルーのポイントになると思い、スポーツビジネスを選んだんですね。

1社目はKONAMI GROUPに入りました。そこでスポーツクラブの新店舗の開発、運営、営業や商品開発などに携わり、広報のポジションに移りました。いろいろな選手のマネジメントやPRも仕事の領域に含まれました。それから主事業のデジタルエンタテインメントに2011年に戻ったんですね。そこからはスポンサーシップビジネスの連続ですね。今振り返っても、この時期の勤め先が1番スポンサーシップに投資した企業じゃないですかね。

2012年のロンドンオリンピックがあって、そのあと2013年にWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)があって、2014年サッカーのW杯があって、あと日本シリーズですよ。野球の日本シリーズの冠スポンサーを民間企業で初めてとったんですね。そのスポンサーシップアクティベーションなどを徹底的にやりました。

もう、結構な額のスポンサーシップをやって、その時にスポンサーシップを中心にキャリアを積んでいく企業側のスペシャリストは果たして存在するのだろうか?と思ったものでした。それで、そういうスペシャリストになってみたいと周りに言い始めたんです。当時、今からもう15年前とかですね。その時はまだSNSなんかも出はじめで、交流も情報も無かった時代ですね。

平地 なかったですね、全然なかったです。

柏崎 そんな時に自分でスポーツ業界で有名な方、成功してる方は誰だろう?と検索して、adidas、NIKE、IMGでご活躍された半田裕さんや元コカコーラの橋爪達也さん等を追っていきました。直接コカコーラ社に訪問をして「どうやったらそういう風になれるんですか」とかインタビューをしたこともあったんですよ。

平地 そうなんですね!

柏崎 24歳の頃ですね。当時、僕はとある五輪金メダリスト候補の仕事をしていたので、その選手をアクエリアスのプロモーションで起用したいという案がはじめあったんです。自分が担当している案件が良かったことも、面会に繋がった理由だったとは思いますね。

当時、このキャリアの志向を自分の上司(GM)に「そういうキャリアを描きたい」と言ったら「そんなのあるわけないだろう!」と言われました。スポンサーシップは狭い職務領域だと認識している多くの日系企業の中で、この概念はなかなか通用しないですね。10年経った今もそんなに変わっていないんじゃないですかね。現在の私の勤め先でもそんな認識に見えます。

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平地 どれだけ伝わっていても、うちでも無いぞと。

柏崎 その領域の仕事はいつまで続くかわからないし、だったらもっと広くプロモーションやマーケティングの仕事をやったらいいんじゃないかという考えで働いていた時期はありました。後にも先にも、あの時のスポンサーシップの仕事というのが自分の中の基礎になっていたと思いますし、今振り返っても先進的だったと思いますよ。

当時、プロジェクトの進捗は「タスクフォース」。簡単に言うと、デキる人の寄せ集めでした。誰もが知ってるサッカーゲームとか野球ゲームとか、ああいうところで働いている人たちを集めてスポンサーシップをやるというようなプロジェクトだったんです。当時僕が28、29歳のときに鍛えられた人たちは今その会社のメインのポジションを務めてますね。制作グループのトップにいたり、あとはeスポーツのトップにいたり、とあるリーグの取締役にいたり、あの方々が僕の師匠なんです。スポンサーシップとはなんぞやという仕事のイロハはそこで叩き込まれましたね。

ここからは淡々と行きますけど、2社目はairweaveという会社にいました。浅田真央選手、錦織圭選手をサポートしていました。それは2013年~2015年ですね。50億から120億に会社が成長していく過程にスポーツマーケティングを活用してました。ソチオリンピックや、錦織選手が活躍した2014年の全米オープンの担当とかやっていましたね。認知と売り上げが一気に上がり、会社が成長していく経験をさせてもらいました。ベンチャーフェーズの企業にはスポーツマーケティングやスポンサーシップは有効かもしれないですね。

平地 貴重ですよね。なかなか体験できないですよね。

柏崎 今日は、実は会社としても(PSIを)結構調べてきたんですよ。面白いフェーズにあるなっていうのが感じ取れたわけですよ。

やっぱりそこも2社目の経験に起因する話ですけど、50~120億って会社としても結構カオス化しているんですよね。ごちゃごちゃしていて、セクショナリズムとか言っていられないようなところで、みんなで一緒に会社を創り上げた環境でした。

自分が退職した時期、売上120億くらいの頃になると大手企業から人が入ってくるんですよね。「定時に来て、定時に帰る。」とか、「言われたことしかやらない」とか、一般企業っぽくなってくる。となると、創業期からいた人は「そろそろかな」という話も出てくる。結果論ですが、このタイミングで出たアルムナイは今、起業してるか、副業してるか、どこかの会社で着実にキャリアアップしてるかですね。

もともと僕は1社目が日系大手だったからちょっとした安定志向があって、「いつまで、このごちゃごちゃが続くんだろう」の不安感から「普通の会社っぽくなったな」という安心感と、「普通の会社っぽくなったら別にいる意味ないじゃん、別の会社でいいじゃん」という目的達成意識もありました。やっぱり今のあの会社じゃなくて、あの時の、あの会社で働いていたことが僕の価値なんじゃないかなと、自分のキャリアを振り返って思いますね。アルムナイとかとお話をしてもやっぱりそうだなと感じますね。

その後、2015~2017年はOAKLEYにいました。いろいろなメディアからも取材いただくことがありますが、元々自分のキャリアビルドは外資系スポーツブランドのスポーツマーケティングやブランドコミュニケーションとかを目指していたので、夢叶ったり、でした。

平地 そうですよね。海外の方が最新の情報が出てきたりするっていうのもあるし、そう見えますよね。

柏崎 そうなんですよね。今のスポーツ業界を若い皆さんがどう思っているかわからないですけど、僕らの若い時というのはIMGに行きたい、NIKEに行きたい、adidasに行きたい、そういう仕事がクールでかっこよくて憧れるという流行りがあったんです。選手と歩いて英語を喋りながら仕事しているという理想があって、そっちの方に行くにはどうしたらいいかを考える毎日でした。

OAKLEYはもう説明不要ですけど、スポーツマーケティングの真髄のひとつですよね。北京オリンピックが閉幕しましたが、小平奈緒選手や高木美帆選手とかトップクラスの選手のSeedingやContractなど、いろいろなことをやっていましたね。もう全てがスポーツマーケティング、スポンサーシップという仕事でした。

ベンチャー企業や私の経験した成長曲線にある外資系企業は個人が際立つと言うんでしょうかね。そこに自分の強みというか適性は感じていました。一方で、1社目のような日系大手にいたときは、例えばスポンサーシップで福岡ドームに行く、東京ドームに行く、札幌ドームに行くといったときに、スポンサーシップクルー全員でカートを持って、みんなで飛行機に乗って、10人くらいで現地に入ってIDパスをつけて、スポンサーシップの仕事をするという、ダイナミックな快感というのがありますね。

平地 なるほど。

柏崎 人の価値観によりますが、個人が際立つ「やってる感」、チームで背負う「一体感」、どちらも経験してみるのがいいと思います。自分が合ってる方でやった方がいい。

平地 規模感の違いが正直ありますよね。

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柏崎 僕はスポンサーシップクルーの一体感とスケール感をもう一度感じてみたいなと、そこを捨てきれなかったんですよね。

3社目を出る時に色々な選択肢がある中で、「ドコモがスポーツビジネスに入るらしいぞ」と聞いたんです。2020年にオリンピックがあるし、これからはテクノロジーでスポーツの可能性を拡張させて、スポーツビジネスに参入!という話だったんですね。しかしながら、自分はドコモに良い印象を持っていなかったわけですよ。ブランドマーケティングの仕事を長年していて、COOLこそ全てでしたので。

前職は世界的なEyewearの会社でしたので、同僚からは「四角い眼鏡、何個か作ってったら?髪は七三なの?半袖ワイシャツとか着ちゃうわけ?」など散々バカにされながら送り出されたのですが、検索してみたら「ドコモとDAZN?」と出ていて、ロゴが黒いんですよね。「ドコモでDAZNで黒い?」「かっこいいじゃん」と思いました。調べてみたらDAZNが入ってくる時に日本で初めてエクスクルーシブパートナーといって、これから日本のスポーツ放映ビジネス、視聴文化を変えていくゲームチェンジをするサービスのローンチタイミングだったんですよね。当時、担当のエージェントに渡されたJD(job description)も、曖昧な仕事内容で、はっきりしていなかったですよ。これはベンチャーのときのエキサイティングな経験が日系大手のスケールでできるのではと。

ベンチャーは仕事で失敗したら失敗したで、散々叩かれますね。「お前のマーケティングが失敗したから、店舗に行って商品を売ってこい」と言われたりとかね。百貨店の売り場に立ってマットレスを30枚くらい売ったとかね、お金の使い方の大事さと責任を、すごい緊張感の中で経験しましたね。

平地 そうですね。

柏崎 僕が当時ドコモに口説かれたのは、とある帰国子女の女性がいるんですけどね、「あなたのキャリアは素晴らしい。だけどスケーラビリティのある仕事をキャリアの1ページに刻むということがどんなに素晴らしいことか」と、「日本を動かすスポーツビジネスをやってみませんか」ということだったんですよ。

平地 うまい。

柏崎 まんまとやられましたね(笑)。それでドコモに入って、DAZN for docomoの仕事を皮切りに様々させてもらってます。2018年の渋谷でのスポーツラウンジが、これまた結構なインパクトがありましたね。画面の中でしか見られないものをリアルでやったらどうなるんだ?という発想からやったことでした。

平地 スポーツビジネス界隈の人は「あそこでイベントやれるらしい」とみんな言っていましたよ。なんならそれぐらいの感じでしたね。

柏崎 今までの会社は、必ず上の方にいろいろな人がいて、プレスリリースひとつとっても世の中に出たときには自分の書いた文章の原型を留めていなかったんですね。仕事、人、能力の組み合わせにもよると思うのですが、このスポーツラウンジに関しては自分が喋ったことが、いとも簡単に、凄い規模感で実現するものだという経験を、この会社に来た1年目、2年目に感じました。とんでもない力のある会社だなと思いました。

平地 まさにスケーラビリティーですね。

柏崎 それを感じたのがあって、そこから100万契約を突破し(日本経済新聞本紙等参照)、いろんな数字が上がっていったんですね。今は事業のフェーズが変わっていますが、DAZN for docomoというビジネスを通じていろいろと自分を成長させてもらったなとは思います。

コロナ禍に突入した2020シーズンは「スポーツを主としている事業はキツイな」と思っていたんですけど、「6月の下旬頃にプロスポーツがカムバックするらしい」「Jリーグも開幕して野球も開幕するらしいぞ」という話になった時に、無観客だから「これはキタぞ!」と。キャンペーン等で新しいことをやることは、周りはそんなに乗り気じゃなかったんですけど。でも「今何かやらないと。10何年この仕事をやっているから俺の意見を聞けよ」と結構言ったんですよね。#SPORTS IS BACKという施策では、リモート環境を駆使して、コミュニケーションしながら観戦しましょうというもので、あれは結構すごい数字が跳ねたんですよね。

その他のプロジェクトとしては「GOLFAI」というゴルフスイングをAIで分析してアドバイスをするアプリを立ち上げたり、直近でいうと「dTV」というOTTサービスでゴルフのトーナメントを放送したりとか、企業務めの会社員としてはそういうスポーツビジネスのチャレンジをしているところですね。

ずっとドコモに入ってから、会社との付き合い方というのを変えていこうと思っていたんですよね。4社目になって、小さな会社がスケールアップするタイミングとか、外資系とか、日系大手も、業界のリーディングカンパニーと国を代表するような規模の会社を経験してきました。言えるのは、特に大きな日系大手だと自分のケイパビリティの幅を活かすことは難しいということ。結局10あるうちの1を使っているかどうかなんです。そうなったときに残りの9をなんとか自分で社会のために活かせないかということをずっと考えていたんですよ。

といった時に副業の制度があるとか、もう時代の流れで厚労省はどんどん副業しろとなってきたりだとか、自分のスタイルを実現するための追い風が吹いてきたんですよね。所属している会社の仕事には当てはまらないのだけど、いろいろとお話をいただくことはあったんです。今日もとある件があって、国際的にビッグなスポーツイベントを誘致するためのボードメンバーに入ってほしいという依頼が来ています。個人に対しての依頼になるんですよね。広義の意味でのコンサルティング。スポーツ業界だけじゃないですけど、社会のために惜しみなく自分の100%の力、全身で働ける環境を作るためには、何をしなきゃいけないか?ということで立ち上げたのが自分の会社「MANAGEMENT-K」だったんですよね。自分に紐づく知的財産とかノウハウとか、コネクションとかを活用しながらスポーツ業界を底上げするためにやっているというのが今のフェーズですかね。スポーツ業界が発展しないと、こういうキャリアを積んできた人の価値がますますニッチに下がってしまう。自分のキャリアを肯定したいという意地?みたいな思いも少しはあります。グローバルでは市民権を得ていますが、特に日本国内、もっと限定すると日系企業では、あまり納得感のある答えを得ていないんじゃないかな。とは思います。私だけじゃなく結構いるんじゃないですかね。

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平地 素晴らしい。ここでもう1記事できたなという感じです。前にお話させていただいた中でも、働き方自体がとにかくバリエーションに富んでいる。ただ、スポンサーシップ、スポーツビジネスというところに何十年もそこにいるというのが国内でも稀有な事例だなと思いますね。

本当にそこがおもしろくて、西脇さんもいろいろとやってきた中で海外のIPを持っているという点でいうとすごくおもしろい経験とご経歴だなと思うのですが、柏崎さんのキャリアに関してはすごくおもしろいと思っているので、そこの経験からも今日お話いただけることをめちゃめちゃ楽しみにしています。いろんなバリエーションのところで同じことをやってきているという人は本当にいないんじゃないかなと思うんですよね。

柏崎 最初から、そうしたくてそうしてきたわけじゃないですけどね(笑)。

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中編へ続く

今回は前編ということで、柏崎さんの自己紹介およびこれまでのスポーツビジネス遍歴について書かせていただきました。

中編では、企業側がスポンサーシップする理由企業側はどのようにスポンサーシップを活用すべきかなどについてお話しいただきます。

ゲスト紹介(柏崎健太氏)

インタビュアー紹介(平地大樹)


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